【感想】下手な大作よりも面白いスリラー「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」
突然ですが、私は「月に囚われた男」や「キサラギ」などの閉鎖的環境で展開されるサスペンス映画が大好きです。
私と同様に、クローズドな環境で展開されるサスペンス映画が好きな方にオススメの映画「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」を紹介したいと思います。
トム・ハーディが車の中で電話するだけの映画なのですが、脚本が素晴らしく、全く退屈しない86分間です。
基本情報
公開年:2014年
上映時間:85分
ジャンル:スリラー
監督:スティーヴン・ナイト
脚本:スティーヴン・ナイト
キャスト:トム・ハーディ、他
概要
「インセプション」「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のトム・ハーディ主演で、高速道路を走る主人公ただ1人が86分間にわたって映し出される異色のワンシチュエーションサスペンス。プライベートでは妻と2人の子どもにも恵まれ、仕事でも建築現場監督として評価され、順風満帆な人生を送っているアイヴァン・ロック。大規模なプロジェクトの着工を翌日に控えた夜、高速道路に乗り、目的地へ向かおうとしていたアイヴァンに1本の電話がかかってきたことから、全てが狂い始めていく。
予告編
評価
全体:★★★★☆
脚本:★★★★★
映像技術:★★☆☆☆
音楽:★★★☆☆
演出:★★★☆☆
編集:★★★☆☆
オススメポイント:車内で繰り広げられる緊迫した会話劇
この映画を一言で表するならば、「高速道路を運転中の男が、様々な問題を電話だけで解決していく」映画と言えるでしょう。
トム・ハーディ演じる主人公のアイヴァン・ロックは、仕事中の夜に一本の電話を受け取ります。それは、数か月前に一夜限りの関係を持った同僚のベッサンからの電話で、実はアイヴァンの赤ん坊を妊娠しており、早期分娩のために今夜にも生まれそう、という内容のものでした。
それを聞いたアイヴァンは翌日に控えた大きな仕事の準備を中断し、高速道路でベッサンが待つ病院に向かいます。視聴者は、その道中(およそ86分間)、アイヴァンとその関係者との電話のやり取りを聞き、アイヴァンが自分に降りかかる難題を如何に解決していくのかを車の同乗者の視点で観ていくことになります。
さて、クローズドなサスペンス映画の場合、視聴者を引き付ける脚本の出来が重要になります。
本作では、下記の4つのサスペンス要素を並行的に描くことによって、アイヴァンの置かれた緊迫する状況(この状況、絶対にヤバい!)、アイヴァンの行く先の不安(いったいこの先どうなるの!?)を視聴者に上手く伝えることに成功しています。
1.明日に控えた大きな仕事
2.ベッサンとの関係を妻に打ち明ける
3.出産を不安に思うベッサンとのやりとり
4.何故アイヴァンは仕事や家庭よりもベッサンとの子供を重要視するのか
1.明日に控えた大きな仕事
アイヴァンは、明日にヨーロッパ規模で大きな仕事が控えているにも関わらず、準備を途中で放り出してベッサンの元に向かいます。
アイヴァンは仕事の管理職という立場にあるので、当然現場は大混乱に。上司が電話をかけ、現場に戻るように説得しますが、アイヴァンは全く折れることがありません。
明日の仕事は絶対に成功させると言い放ち、部下に電話をかけてあれこれと指示をします。
だがしかし、この部下は仕事の途中で酒を飲んでいたり、基本的なことをアイヴァンに質問したりで、どこか信用できず、頼りない。
アイヴァンが非常に優秀な人物であることは、会話の節々からわかるのですが、「電話からの指示だけで、明日の準備をするのって無理じゃね?」と思ってしまいます。
当然、様々な問題がアイヴァンに降りかかってくるわけで、彼がどのように電話だけでそれらを解決していくのかが見所です。
2.ベッサンとの関係を妻に打ち明ける
アイヴァンは、ベッサンとの間に子供ができたことを、運転中の電話によって妻に打ち明けます。
人生でもトップクラスに言いにくいことである「浮気の告白」。アイヴァンは、仕事の電話の合間に、それを話さなくてはならなくなったのです。
トム・ハーディの一人芝居とは思えない表情が必見です。
3.出産を不安に思うベッサンとのやりとり
仕事の電話、家族との電話の合間に、彼は出産を待つベッサンにも電話をかけます。
「あと〇分くらいで着くから、安心して待っているように。」と彼は言うのですが、彼の置かれている状況(上記1と2)を知っている視聴者は、「本当にベッサンのところに行くのか?」「途中で引き返すのでは?」と思わず疑ってしまいます。
4.何故アイヴァンは仕事や家庭よりもベッサンとの子供を重要視するのか
仕事のことで頭を悩ませ、妻との会話に苦しむアイヴァン。なぜ彼はそこまでして一夜限りの相手であるベッサンの元へ向かうのか。
この問いかけが、物語の核心であり、視聴者を引き付ける重要な要素になっています。
それでは、いよいよ感想に入っていきたいと思いますので、ネタバレ可の方は続きをお読みください。
感想
全く退屈しない86分間
上に書いたように、この映画は非常にコンパクトな内容で構成されています。
・登場人物(電話の相手は除く)は主役のトム・ハーディだけ
・場所は、主役の運転する車の車内
・映画の上映時間と作中の時間がリンクしている
これだけ聞くと、「内容が薄そう」、「途中でダレそう」、「おっさんの電話だけで面白いの?」、「低予算過ぎる」という否定的な意見が聞こえてきそうですが...
結論から言って、私はこの作品を面白いと思いました。
理由はいろいろあるのですが、一番大きな理由は、先に述べた 4つのサスペンス要素が同時並行的に描かれ、視聴者を飽きさせない点にあります。
電話だけではうまく仕事の内容を伝えられないことにアイヴァンは苛立ちを覚えるのですが、次にかかってきた妻からの電話では、「もう家に帰ってこないで」と言われてしまいます。妻からの言葉に答えを窮してしまうアイヴァンなのですが、ベッサンからも電話がかかってきて、「まだ病院には着かないの?」と言われてしまう。
おそらく、人生で最も大きな問題が振りかかっているはずなのですが、彼はそれを運転中の車の中でこなしていきます。
他の運転者から見たら、彼の車は高速道路を走っている普通の車であり、車の中の電話内容など、想像することができません。
一方、他の車も彼から見たら普通の車であり、問題を抱えているかどうかなど、わかるはずもありません。
この映画を観終わった後に思ったことは、「アイヴァンの身に起こったことは他人ごとではなく、一見普通に暮らしているような人々にも起こりうる、非常に身近なことでないか。」という恐怖でした。
一夜限りとはいえ、浮気というものの代償を痛感する映画であると思います。
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