【感想】「ダンケルク」第二次世界大戦を題材にしたサスペンス作品
クリストファー・ノーラン監督の最新作「ダンケルク」を観てきました。「ノーラン監督なのに戦争映画!?本当に面白いのだろうか…。」と、当初は不安がありましたが、全編通してノーラン監督らしさが滲み出ている大傑作です。
作品概要
- 公開年:2017年
- 上映時間:106分
- ジャンル:サスペンス
- 監督:クリストファー・ノーラン
- 脚本:クリストファー・ノーラン
- 音楽:ハンス・ジマー
- キャスト:フィン・ホワイトヘッド、トム・グリン=カーニー、ジャック・ロウデン、ハリー・スタイルズ、アナイリン・バーナード、キリアン・マーフィ、トム・ハーディ、etc
あらすじ
第二次世界大戦勃発後、北フランスまで勢力を広げたドイツ軍は、戦車や航空機といった新兵器を用いた電撃的な戦いで英仏連合軍をフランス北部のダンケルクへと追い詰めていく。この事態に危機感を抱いたイギリス首相のチャーチルは、ダンケルクに取り残された兵士40万人の救出を命じ、1940年5月26日、軍艦はもとより、民間の船舶も総動員したダイナモ作戦が発動する。今作は、ダンケルクからの脱出を試みるイギリス兵、兵士救出のためにダンケルクに向かう民間船、撤退行動を援護するイギリス空軍パイロットの三者の視点から、ダイナモ作戦をリアルに描くサスペンス映画である。
評価
全体:★★★★★
脚本:★★★★★
映像技術:★★★★★
音楽:★★★☆☆
演出:★★★★☆
編集:★★★★☆
感想
戦争映画ではなくサバイバルの物語である
公開前のインタビューにおいて、クリストファー・ノーラン監督は、「ダンケルク」を戦争映画ではなく、ダンケルクからの脱出を描くサバイバルの物語であると発言していました。実際に映画を見るまでは、❝戦争映画ではない❞という意味がよくわからなかったのですが、映画を観てみると、これは戦時下でのサバイバルを題材にしたサスペンス映画であることがわかります。
まず、この作品には敵方であるドイツ兵が一切登場しません。イギリス軍、フランス軍はドイツ軍からの銃撃、戦闘機からの爆撃などを受けますが、兵士の姿は全く登場しません。敵が見えなくとも、いきなり銃撃を受けることがあるため、兵士と同様に観客側も見えない敵に恐怖感を抱くことになります。戦争を題材にしているため、今作はドイツ兵を見えない敵としていますが、受け手としては「ジョーズ」や「正体不明 THEM」のような見えてない敵に恐怖するホラー映画に近いものを感じました。
また、第二次世界大戦を題材にした映画によくみられるナチスへの言及がなく、政治的視点が排除されています。ノーラン監督によると、ナチスについてのセリフを入れるとどうしても説明的になり、物語のテンポが悪くなってしまうため、完全に排除することにしたそうです。確かに、これにより物語の無駄がなくなり、サバイバルに特化した内容になったのだと思います。
理屈抜きのサスペンス要素
「ダンケルク」には、戦争という題材以外でも使えそうなサスペンス要素が含まれてます。
例えば、ダンケルクから脱出するため、イギリス兵たちが無人の民間船の倉庫に身を潜め、潮が満ちるのを待つ場面があるのですが、潮が満ちる前に、船体に銃弾による穴が開けられます。船の中にイギリス兵が潜んでいるかもしれない、と考えたドイツ兵による狙撃なのですが、潜んでいることを知られたくないイギリス兵たちは、音を立てずにドイツ兵があきらめるのを待ちます。しかし、穴は一つずつ増えていき、ついに穴から海水が入り始め、船内はパニックに陥る、というものです。穴をふさぎたくても、穴の近くに行けば、自分が狙撃される、という恐怖を見事に描いている一場面です。この場面だけ切り取れば、戦争という題材以外でも使えるのではないか?と思いました。
時間の流れの異なる3者の視点から全体が構築される
クリストファー・ノーラン監督は、「メメント」や「インセプション」のように【時間】を演出・脚本の主軸に置くことで有名です。今作にも、【時間】の要素が多分に含まれています。
本作は、以下の3つの視点および3つの時間スケールが絡み合いながら物語が進行します。
①ダンケルクから脱出を試みるイギリス兵(1週間)
②兵士救出のためにダンケルクに向かう民間船(1日)
③撤退行動を援護するイギリス空軍パイロット(1時間)
物語の冒頭は①から始まるのですが、次に②が始まります。そして、次は③に移り、また①に戻ります。その後、エンドロールに至るまで、①、②、③の視点が交互に入れ替わり進行していきます。
ノーラン監督と言えばクロスカッティングの手法を多く用いることでも知られていますが、本作は異なる時間に起きている3つ以上のシーンのそれぞれのショットを繋いでいることが大きな違いです。
この時間の流れについては、1週間、1日、1時間というスケール間が提示されるだけで当初は関係性が全く分からないのですが、物語が進むにつれ、①、②、③で描かれる何気ない描写が少しずつ交差し始めます(例えば、キリアン・マーフィー演じる英国兵が、②の後に①に登場する。)。交差し始めたことがわかると、「③で起こっているこの出来事が、後々②に影響するのでは?」という考えが常に浮かび上がり、どんな小さなことも見過ごすまいと、かじりつくようにスクリーンを見てしまいます。このように、受け手が積極的に視聴する効果を、ノーラン監督は狙っていたのかもしれません。
まとめ
戦争映画ということで不安視していましたが、蓋を開けてみると、演出、音楽、編集など、ノーラン作品ならではの内容が詰まっている大傑作です。
戦争映画に含まれるプロパガンダ的要素が苦手な私なのですが、今作は政治的視点が排除されており、どのようにしてダンケルクから脱出したのか、というサバイバル要素のみに焦点が当てられています。
描いている事象は大変コンパクトなのですが、CGを極力使わない映像に多大な労力がかけられていることは想像できます。
ここまで贅沢なサスペンス映画は他にないのではないでしょうか。ノーラン監督だからこそ作ることができた大傑作と言えます。
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