【紹介×感想】コリン・ファースの名演が光る!『シングルマン』
こんにちは、ノリスケです。
前回の映画紹介記事『キングスマン』に続き、コリン・ファースの主演映画を紹介します。今回紹介する映画は、コリン・ファースが英国アカデミー賞の主演男優賞を受賞した『シングルマン』です。
ファースが演じるのは、最良のパートナーを失って人生の意味を見失い、自殺を図ろうとするゲイの大学教授です。
『キングスマン』のハリー役で、彼が最もハマる「英国紳士」というイメージは多くの人に定着することになりましたが、この『シングルマン』でも彼は見事な「紳士」を演じています。
ファースの繊細な演技をこれでもかと言うほど見せつけられる作品になっているので、ファースに興味を持ち始めた方には、是非お勧めしたい作品になっています。
※ページ下部の感想にネタバレがあるので注意してください。
基本情報
公開年:2009年
上映時間:99分
ジャンル:ドラマ
監督:トム・フォード
キャスト:コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、ニコラス・ホルト、マシュー・グッド、他
概要
世界的ファッション・デザイナーとして活躍するトム・フォードが長編映画初監督に挑んだ話題作。1964年に発表されたクリストファー・イシャーウッドの同名小説を原作に、長年のパートナーを亡くした50代のゲイのイギリス人大学教授の愛と葛藤を描き出す。「ブリジット・ジョーンズの日記」のコリン・ファースが主人公を繊細に演じ、ベネチア国際映画祭で主演男優賞を獲得。共演にジュリアン・ムーア、マシュー・グードほか。
予告編
ノリスケの評価
100点満点中 90点
全体:★★★★☆
脚本:★★★★☆
映像技術:★★★★☆
音楽:★★★★☆
演出:★★★★☆
編集:★★★★☆
一言で言うとどんな映画なの?
交通事故で最愛のパートナーを失い、孤独感に苛まれる主人公の自殺決行日の一日をスタイリッシュな映像で表現した作品です。
主人公の孤独を表現するように、主人公が一人のシーンでは画面全体に白黒を基調としたテクスチャーがかかり、陰鬱でクールな映像に仕上がっています。一方で、誰かと会話し、主人公のテンションがやや上がっているシーンでは、画面全体が明るくなり、主人公の心が(一時であれ)明るくなっていることが表現されています。
主人公はゲイなのですが、同性愛を描いた恋愛映画ではなく、「最愛の人を失ったとき、人は何のために生きるのか」をテーマにした大人向けのドラマ映画です。
どういう人にオススメか?
人生における普遍的な問いをテーマにしているので、万人にお勧めできる映画だと思いますが、娯楽映画ではありませんので、友人や恋人と鑑賞するよりも、休日の午後や金曜日の夜に一人で見たほうが良い映画だと言えるでしょう。
特にも、長年連れ添った夫、妻がいる方には、より共感できる内容になっていると思います。
派手さではなく、静かな映像と余韻を楽しむ映画になっているので、極力周りの音をシャットアウトして、静かに一人で鑑賞することをお勧めします。
さて、ここからは、ネタバレ有の本編の感想になりますので、未視聴の方はご注意ください。
感想
衣装、車、家、家具、小物に至るまで、デザインに統一感があり、非常にクールな映像に仕上がっています。特に、主人公ジョージの衣装、家、車がスタイリッシュに決まっていて、実に素晴らしい。無機質にも見える映像がジョージの孤独感を一層際立たせていると感じました。
コリン・ファースの演技に脱帽
今作において、コリン・ファースが演じた主人公ジョージは、非常に難しい役柄であったと思います。
今日にでも自殺したいというマイナスの感情と、教え子のケニーに少しずつ惹かれていくというプラスの感情を、 相反しながらも実に繊細に演じていたように感じました。
劇中のジョージの言動から、16年連れ添ったパートナーであるジムが如何に大切な存在であり、何物にも代えがたい恋人だったことが伝わってきます。
彼自身、人にとっての幸せとは心から通じることのできる人間と一緒の時間を過ごすことと発言しており、ジムのいなくなってしまった生活が如何に不幸であり、生きる目的がないのだということを強調しています。
しかしその一方で、彼はカルロスやケニーとの会話に小さな喜びを感じ、彼らと仲良くなりたい、もっと色々な話をしたい、という願望をちらりとのぞかせます。
ファースは、このプラスの感情をちらりと覗かせる部分を実によく演じていて、一見するとクールな英国紳士でありながら、とてつもなく寂しい思いをしている孤独な中年男性の複雑な感情を巧みに表現していました。
アカデミー賞主演男優賞ノミネートも納得の演技です。
ラストの解釈
本作は、自殺を思いとどまった主人公が心臓発作によって死んでしまうというラストで幕を閉じます。
一見すると悲劇的なラストに見えますが、私はジョージを可哀想には思いませんでした。主な理由はいくつか思い浮かびますが、大きな理由は、彼自身が死を不幸なものとと考えていなかったことです。
ジョージとケニーの会話シーンでも触れられていますが、ジョージにとって死とは人間誰もがいつかは到達するものであり、それがいつ起きるかだけが問題なのです。
ジョージにとって最大の不幸は、かけがえのないパートナーであるジムを失ったことであり、彼なしの人生に意義を見出せなくなっていたことでした。
しかし、彼のその考えは、教え子であるケニーとの触れ合いによって徐々に変わっていきます。最終的に、ケニーがジョージの心を見透かしたように、拳銃をこっそりと隠し持っていたことから、ジョージは自殺を諦めます。
彼自身、ジムのいない人生に何の意味もないと思っていたのですが、ケニーとの触れ合いの中にひと時の幸せを感じ、非常に瞬間的なその幸せを目的として生きていくことも悪くないと考えを改めるのです。
彼はラストで死んでしまいますが、現在の生活の中に幸せを見出した彼の最後は決して悲劇的ではなかったと私は感じています。
ただ、どうしても、何も殺すことはないんじゃないかという意見もあると思います。
ここからは、私の想像ですが、監督のトム・フォードは、ジョージとケニーが恋人同士になる未来を観客に想像させたくなかったのではないかと思います。
ラストでジョージが亡くならないとすると、視聴側は嫌でもジョージとケニーが仲良くなっていく未来を想像してしまいます。根拠もなく漠然とした考えなのですが、ジョージの死によって、ジョージとジムの関係を永遠のものにしたかったのではと思いました。
まとめ
色々な映画を観ていると、派手な超大作ではなく、静かに余韻を楽しむタイプの映画を見たいと思う時期が高頻度で訪れるようになります。
今回の『シングルマン』は、まさにそのようなタイプの映画に合致する内容であると言えるでしょう。
「人生における幸せとは何か?」
普遍的な問いですが、このような問いを映画を通じて考えられるということは、とても幸せなことなのかもしれません。
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