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【感想】「聲の形」聞こえない少女と聞きたくない少年を描く映画

 ※以下、映画のあらすじ、ネタバレを含みますのでご注意ください。

※個人的な感想を多分に含む駄文であることをご承知おきください。

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2015年版『このマンガがすごい!』オトコ編で第1位に選ばれた漫画「聲の形」。京都アニメーション制作の映画が公開されているということで、近所のシネコンで見てきました。

原作を未読のこともあり、「聾唖の少女のために主人公が頑張る恋愛映画」くらいに考えていたのですが、本当に考え甘かったです(笑)。未見の方には注意していただきたいのですが、本作は、学校内のいじめとスクールカーストの問題を題材にし、他人と上手くコミュニケーションが取れない少年少女を描いた社会派のアニメ映画です。

取り上げている問題が問題なので、非常に重い内容になっていますが、メッセージ性が極めて強い作品ですので、是非若い世代の方々に見てもらい、他人とのコミュニケーションについて考えていただきたい作品です。私自身、映画を観終わってから悶々としてしまい、ここ数日は「聲の形」のことが頭から離れなくなりそうです(個人的に、あまりにも衝撃的すぎる映画を見た後に、数日間映画のことが頭から離れなくなることを映画後遺症と呼んでいます)。

自分の脳内では消化しきれないので、この場を使って感想を文字化したいと思います。

 

ちなみに、PVはこんな感じ。これだけだと、健常者と障碍者の恋愛映画に見えます。

映画『聲の形』 ロングPV

 

~あらすじ~

 

高校3年生の石田将也は、小学校時代のある出来事がきっかけでクラスに馴染めず、友達がいない高校生活を送っていた。将也は、この世に未練をなくして自殺しようと考え、小学6年生の時に自分がいじめていた聾唖の少女西宮硝子に会いに行く。自分の犯した罪の大きさから、硝子に拒絶されることを恐れていた将也だったが、意外にも硝子は将也にまた友達になろうと伝えてくれた。将也は自殺をすることをやめ、硝子と友達になることを決意する。

 

評価

 

★★★★★

 

~コミュニケーションが苦手な少年少女~

 

本作では、耳が聞こえず、他人と声によるコミュニケーションが取れないヒロインと、耳は聞こえるけれど他人とのコミュニケーションが苦手な主人公が時に対比され、時に共通項として描かれます。ヒロインが聾唖者ということで、障碍者とのコミュニケーションの難しさを扱った映画かと思われがちですが、今作はあくまで耳が聞こえる、聞こえないにかかわらず、人と人はどのようにしたら分かり合えるのか、という点をテーマにしている映画だと思います。

本作では、主人公とヒロインのほかにも、コミュニケーションに何らかの問題を抱えた人物が登場します。

主要登場人物

石田 将也(いしだ しょうや) 

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本作の主人公。友達が全くおらず、クラスで浮いている高校3年生。

小学6年生まではスクールカースト最上位に位置するクラスの人気者であったが、転校してきた硝子へのいじめ行為についてクラスで弾劾され、自身がしてきたいじめ以上の仕打ちを彼自身がされることになった。仲良くしていた友達から裏切られたことが強烈なトラウマとなり、他人と上手くコミュニケーションが取れず高校でも孤立してしまっている。彼は他人の声を「聴く」ことができず、顔を見ることもできない。彼が顔を見ることができない人物は、顔にバツ印が被った状態で描かれる。

 

西宮 硝子(にしみや しょうこ)

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本作のヒロイン。耳に障碍があり、耳がほとんど聞こえない。

小学6年生のときに将也のクラスに転校してくる。クラスメイトと筆談でコミュニケーションをとろうと試みるが、次第に疎ましく思われ、いじめの標的とされる。どんなに酷い仕打ちを受けようとも、自分から取り乱すことは少なく、すぐに「ごめんなさい」と誤っていた。その行動が逆に周囲の反感を買い、いじめがエスカレートすることになる。

自分に献身的に接してくれる将也に対して好意を持ち、それを声で伝えたいと思っているが、うまく伝わらないことを悩んでいる。また、自分と関わることによって将也とその周囲の人間関係を悪化させたと思っており、自分自身のことを好きになれないでいる。

 

西宮 結絃(にしみや ゆづる)

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硝子の妹の中学生。

写真撮影が趣味で、動物の死骸など、少し変わった写真を撮っている。

詳細が明らかにされていないが、不登校で長らく学校に通っていない。硝子だけでなく、自分にも優しく接する将也に戸惑い、偽善者と非難するが、その優しさが真意であることに気づき、将也になついていく。人付きあいが不器用なことから、クラスの中で浮いてしまい、学校に行かなくなったのだと思われる。

 

植野 直花(うえの なおか)

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小学校時代の将也のクラスメイト。猫カフェバイトをしている。

サバサバ性格と姉御肌っぽいところから、小学校時代は将也と同じくスクールカースト最上位に位置していた。彼女も硝子をいじめていた中心人物であったが、学級裁判により将也一人が犯人に仕立て上げられ、彼女が非難されることはなかった。そのことを悔いており、もう一度将也と友達になろうと振舞うが、硝子に対する態度が変わった将也に戸惑いも感じている。作中でも触れられているが、彼女と将也は似た者同士として描かれている。

 

佐原 みよこ(さはら みよこ)

将也が小学6年生の時の同級生。

手話を学んで硝子をサポートしようとするが、硝子とともに女生徒から疎外されることとなり、不登校になった。

硝子を放り出してしまったことを悔いていたが、高校生になっても嫌なことから逃げてしまう自分を嫌っている。

 

川井 みき(かわい みき)

学級委員を務める女生徒。

転校してきた硝子に対して、最初は優しく接していたが、徐々に直花と共に彼女を排斥していく。真面目な女子として振舞う一方、将也のみに硝子いじめの罪をなすりつけるなど、自分の保身のためなら手段を択ばない一面を持っている。その事に彼女自身は気づいておらず、自分は善良な人間だと思っている。

 

・・・他にも沢山の人物が登場しますが、コミュニケーションに何らかの悩み(または短所)を抱えている人物はこんな感じです。特筆すべき点は、彼らが何か特別な人間として描かれているのではなく、どこのクラスにもいそうな人間として描かれていることです。自分の周りにも実際にいるような人間たちの交流を通して、人と人とのつながりは何か、どうすれば仲良くできるのか、ということを考えてもらいたいですね。

 

~いじめによるコミュニケーション~

 

本作の序盤では、小学校で起こるいじめが描かれます。

最初は、将也とその友人、直花、みきが硝子とみよこをいじめるという構図でしたが、学級裁判後は、クラス全体から将也が疎外されるという構図に様変わりします。特徴的であるのは、誰もが無意識の悪によっていじめを行っているという点です。

将也は硝子の補聴器を奪い、それを校庭に投げ捨てるなど、信じがたい悪事を行います。しかし、一方で硝子が女子から疎外されていることを気遣うような行動も見せます。冒頭では彼とその友人の日常が描かれますが、そこに見られるのは悪事を働く少年ではなく、友人と家で遊んだりするごく普通の少年です。彼にとっていじめというのは、自分が上手くコミュニケーションが取れない相手(硝子)に対して、彼ができる唯一のコミュニケーションツールだったのではないでしょうか。そのコミュニケーションによって彼はスクールカースト上位に一時は留まることができますが、学級裁判により立場が逆転し、自分が無意識的に行ってきた悪意に苦しめられることになります。

みきは自分が将也を苦しめているとは全く思っておらず、高校生になっても将也を悪者にし、自分は善玉であると周囲に訴えかけます。それについて直花に指摘されるも、みきは自分の行為が正しいと信じて疑いません。

本作は、学校という閉鎖空間の中で、誰もが無意識的に遺物(本作でいう硝子、将也)を排除してしまうというグロテスクさを包み隠さずこちらに伝えてきます。

 

~声が聞こえない少女と声を聴かない少年~

 

本作では、主人公である将也とヒロインである硝子の成長が描かれます。

将也は小学校時代の出来事がトラウマとなり、同級生の言葉を聴くことを恐れ、耳を塞いでしまっています。将也は硝子や周囲の人々との触れ合いを通じて、人の想いをもっと知りたいという気持ちを持ち、耳を塞ぐことを止め、周囲の声を聴き始めます。

硝子は耳が聞こえないことで周囲とトラブルになることを恐れ、自分の意見を言わず、自分が謝ることで物事を丸く収めようとします。一見すると優しさとも取れる硝子の行為ですが、自分の考えを相手に伝えず、自分が悪者になって物事を解決する行為は、面倒な相手との対立を避け、安易な方法を選択していることにほかなりません。将也や直花との出会いを通じ、卑怯な自分自身を受け入れ、将也と共に成長することを選択します。

本作は、似た者同士である彼らを対比させることにより、恋愛だけに留まらず、思春期の少年少女の心の変化を微細に捉えています。何度も言いますが、是非10代、20代の若い世代の方々に見ていただき、いろいろなことを考えていただきたい作品です。

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本作で特徴的なワンシーン。将也は耳を塞ぎ、学校内の声を聴かないようにしている。将也が声を聴いていない対象は、顔にバツ印が描かれる。

 

~関連商品~

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (ガガガ文庫)

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 スクールカースト上位に位置する人間と、下位に位置する主人公の交流を描いたライトノベル。本作と同様に、学校内のコミュニケーション問題に焦点を当てている。

 

 本作の原作本。未読ですが、近いうちに必ず読みます!