【感想】コズモポリス(Cosmopolis)
夜の11時頃、huluで映画を漁っていたら、以前レンタルしたのに結局見なかった「コズモポリス」を発見。デヴィッド・クローネンバーグの監督作品なので、少し気合を入れて鑑賞。
~あらすじ~
エリック・パッカー(ロバート・パティンソン)は若くして金融取引で成功した億万長者。オフィス代わりのリムジンに乗り、今日も秒単位で取引を行う彼だったが、元の変動を読み切れず、莫大な損失の危機にあった。また、エリックの暗殺をほのめかす脅迫文も届き、彼の一日は大きく狂っていく。
~思ったこと~
現実感のなさ
この映画では、主人公エリックの人生最後の一日が描かれます。移動手段兼オフィスであるリムジンでビジネスパートナー達と仕事をしていくエリックですが、謎の脅迫文と元の変動により、暗殺と破産の危機という二重の窮地に立たされていきます。億万長者なのに、一瞬で破産してしまうことがわかったら、私であれば冷や汗だらだらでとても平常ではいられないと思うのですが、エリックは大損をすることがわかっても一切焦ることはなく、まるで他人事のように振舞います。脅迫文についても同じく、周りのSPの心配をよそに、一切恐怖を抱きません。
それどころか彼は、仕事の合間を見つけては妻以外の人とセックスしまくる始末。肝心の妻に対しても、町で見かける度に何度も「君とセックスしたい!」とマジ顔で迫るのですが、「あなたからはセックスの匂いがする。。。」と言われ、ことごとく振られてしまいます。また、SPの女性とセックスした際にも、「そのテーザー銃で俺を撃ってくれ!」などと変態めいたことを言い放ちます。このような彼の言動から見えてくるのは、彼にリアリティが欠如していることです。
非常に優れた防音性をもち周囲と隔絶されたリムジンで、指先一つで莫大な金額を操作していることからも、彼のビジネス・日常が現実世界と離れていることが伝わってきます。彼は、自分が生きていることを確かめるために、セックスや痛みを欲しがるのではないかなーと思いました。
ナッツを食べながら外貨の変動をチェックし、予想を立てるエリック。まさに指先一つで何十億ドルもの金額を操作している。
ラストの解釈
物語のラストで、エリックは自分の命を狙う暗殺者ベノ・レヴィン(ポール・ジアマッティ)と対峙します。ベノはエリックの会社の元社員で、エリックから人間扱いされなかったことに恨みを持ち、彼を殺そうとします。ベノは、「テラスで優雅にランチを食べている人間に腹が立つ」などと言い、エリック個人に対する恨みに加えて、下流層から上流層(金持ち)への妬みや恨みの感情を持っていることがわかります。(ネズミの死骸を持ったデモ集団が本編の各所に登場します。ネズミ=下流層というイメージなのでしょうか?)映画のラストは、ベノがエリックの頭に銃を突き付けた後にブラックアウトします。映画全編が、エリックの視点で進みことから、ブラックアウト=エリックの死であると私は思いました。
左でを自分で打ち抜くエリック。
~全体を通して~
全編を通じて、登場人物たちが哲学的な会話をしまくります。金融取引がどうのこうのという話より、断然そっちのほうが多いです。登場人物にもどこか現実感がない(人間的でない)部分があり、物語自体も淡々と進みます。人を選ぶ映画であることは間違いないのですが、2度3度鑑賞することによって、新たな解釈が生まれるタイプの映画であると思います。
~雑多なこと~
エリックの警備主任トーヴァルを演じた役者さんを、何かの映画で見たことあったなーと思っていたら、「フルートベール駅」に警官役で出演していました。あっちはノンフィクションものですが、一人の男の人生最後の日を描いた点では本作と共通ですね。
警備主任のトーヴァルさん
~関連商品~
本作の原作本。映画でよくわからなかったところがわかるかも。。
トーヴァル役の、ケヴィン・デュランドさんが出演する映画。コズモポリスと同じく人生最後の日を描くが、2009年にアメリカで起こった黒人青年射殺事件を題材にしている。筆者の中でベスト10に入る映画。